昔からの名前の由来には、さまざまな説があります。
谷川土清が「倭訓の栞」で、契沖(江戸時代の国学者)の影響を受けたかどうかわかりませんが、「もちは望月である」と述べています。月の世界でうさぎがおもちをついているというおとぎ話しとの関連は別として、望月説の支持者は今に続いています。望月の「円」が円満の象徴であると説きます。我々の祖先は太陽や月を尊祟し、祭りなどのたびに太陽や月になぞらえて、もちの形を円にするようになったのではないでしょうか。
「和漢三才図会」・「箋註倭名類聚妙」・「古今要覧稿」・「成形図説」などは、「搗きたてお餅は股坐膏薬よりよくくっつく。それで鳥黐・黐木のモチからきた」とする粘着説をとっています。
新井白石の「東雅」は、「もちひは糯飯なり」といっていますが、おもちのもちと鳥黐のもちと糯米のもちのいずれが元のことばなのかは、前記の望月のもちと餅のもちと同様に、言葉と物の名称あるいは物の名付けのどちらが古いか(淵源であるか)は興味のある課題と伝えます。
古川瑞昌氏は、昭和47年に「餅の博物誌」の中で台湾語がもちの語源になったという説を出しました。「台湾ではもちを麻●(MOA・CHI)といいます。また、台湾には、中国大陸の福建省から人の移動が多かったのですが、福建省ではもちを麻●といい、中国の江南地方でもモアチイと発音しているので、江南地方から直接にもち米と一緒に伝来したか、台湾を通って伝わったか、どちらにしてもモアチイがモチに転化した」という説です。お米の調理、供食の方法はお米と一緒に渡来した筈であると考えますと、これが真説ではないでしょうか。
興味深いのは、沖縄で旧暦12月8日に行われる行事「鬼餅祭」を方言で「ムーチー」ということです。台湾から「モアチイ」が沖縄では「ムーチー」となり、日本本土では「モチ」に縮まったと考えられるわけです。
【●=米へんに茲】
1月 | 正月餅。草餅。3日、13日、23日は太子講の餅団子を作る。 |
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2月 | 山の神の餅、かき餅 |
3月 | 節句餅(紅こ餅ともいう)。 |
4月 | 釈尊降誕日に白餅。八十八夜によもぎの葉を入れた草餅。 |
5月 | 柏餅(柏だけでなく笹を用いることもある)。 |
6月 | ぼた餅。歪上り。 |
7月 | さなぶり餅(田植の終わったあとの祝い餅)。 |
8月 | 14日盆のこわめし。15日白餅(枝豆をゆでてつぶし、調味したものをつける)。16日彼岸餅(白餅または枝豆、あずきをつける)。月見だんご。 |
10月 | ぼた餅。米に芋などをまぜ、あん、納豆をつける芋ぼて。 |
11月 | 刈り上げの祝い。他の月よりたくさんの白餅。のし餅にした草餅。 |
12月 | 正月餅(白餅)の用意及び、年に一度の小米を用い枝豆を入れる。 |